平穏の片隅

哀しみをかかえて生きていく。

無力な愛

 

夢を見た。

実家で飼っている犬の耳が遠くなり、

どんなに呼びかけても私の声が届かないという夢。

 

朝起きたら涙で顔はぐちゃぐちゃで、「これは夢だ」と何度も自分に言い聞かせた。

私がそのような夢を見たのはきっと、数日前の出来事が起因しているにちがいなかった。

 

 

妹の受験の関係で犬をペットホテルに預けることになった。しかし最初に予約しようとしたホテルは、「10歳以上の老犬はいつ何があるかわからない」というのを理由に断られてしまった。結局別のホテルに預けたのだが、それ以来、いつのまに私の年齢をとっくに追い越した彼の死が、突然怖くなった。

 

きっと、彼の命は長くない。私より早く亡くなってしまうことは覚悟していたはずだったのに、それはどこか遠い未来のように感じていた。遠いはずの未来がすぐそこまで近づいてきていることに私は気づかなかった。

彼が死に向かっていくのを私は見守ることしかできない。散歩を嫌がるようになっても、ごはんを食べなくなってきても、立つことができなくなっても、ただ、愛することしかできない。

どれだけ愛しても、ひたすら無力なのだ。

 

その日は、彼がいなくなってしまう未来がそう遠くないという怖さでいっぱい泣いた。ただ、泣いたところで運命はそう簡単には変わらない。無力だった。

 

私は随分と弱くなった。大切なものが増えすぎた。

せめて、大切なものを大事に大事に抱きしめたい。